
松元建設が新たに手がけるプレミアム住宅のブランド「atelier Ming」。その核にあるのが、建築家・伊礼智さんが携わる住宅プロジェクト「i-works」です。対談では、なぜ規格でありながら住み手が自然に馴染み、自ら関わっていけるのか、その設計思想と実装を掘り下げます。i-works4.0 都城の家として設計されたatelierMing のモデルハウスでは、地域の土地柄を活かしながら、構造・素材・自然との応答性を織り交ぜた家づくりが提示されました。対談を通じて浮かび上がるのは、「いい家」とは何かをつくり手と住まい手が共に考え、育てていく姿勢と、心豊かな暮らしへの現実的な道筋です。
誰もが心地よいと思える住まいをつくりたくて
久永:私が初めてi-works を見たのは、茨城の柴木材さんのi-works1.0。
いまから2年半ぐらい前になります。実際どういうものだろうと思って商談を兼ねて2 時間ぐらい滞在したのですが、とにかく居心地が良くて、ずっと居たいなって思ったのが、一番の感想でした。


伊礼さん:i-worksの1.0は、一番最初の設計なんですね。久永さんがご覧になったi-worksは僕が直接設計したものではないんです。実はその前に最後まで僕がやった住宅があって、僕が設計はしてなくても、僕が設計した空間を受け継げるのがi-worksの特徴なんです。
つまり、i-worksは、特定の「住まい手」がいて、その人に合わせて、世界に一つだけの住宅を設計するというのではなくて、不特定多数の多くの人が「これは住めるんじゃないか、住んだら気持ちいいんじゃないか」そう思えるようなプランニングをしているんです。
久永:普通はお施主さんがいらっしゃって、その方の好みで「ああして欲しい、こうして欲しい」をうかがいながら設計していく、注文住宅ってそういうものだと思っているわけですけど、そうではなくて…
伊礼さん:そうなんです。いろんな人が「何かすごく楽しそうな家だな」そう感じてもらって、それを自分の色に変えていけるというか、そういう設計をやろうというのがi-worksなんですね。
「世界に一つしかない、そのお施主さんのための家を設計して提供する」というのが建築家の本業と思われていますが、例えば歴史に残るコルビジェとかフランクロイドライトとか アルヴァ・アアルト、そんな世界的な建築家でもみんな規格住宅や量産型の住宅にチャレンジしているんですよ。ある一人のお施主さんのためだけじゃなくて、多くの人に自分がいいと思っている空間、建築に住んでもらいたいというのが、私の心の中のどこかにあるんだと思います。
自分ももしチャンスがあればそういうことやってみたいなと思っていたところに、地域の工務店や建材メーカーといういろいろ仲間が出てきて、お声がけいただいて始めたのが、このi-worksプロジェクトなんですね。
だから、i-worksは、すごく癖のない、多くの人がいいなと思ってくれるような住宅…なんじゃないかと思っているんです。

久永:わかりました。他に規格住宅というものをつくるのに、こういういい点があるとか、i-worksがもっている優れたシステムがありますか?
伊礼さん:一番大きな特徴は「作り込んでいない」ということです。クライアントのお施主さんがいるときには、要望を聞いて、例えば「作り付けのこういう棚が欲しい」といろいろ作っていくんですけれども、できるだけそういうものはなくして、最小限の生活に必要な最小限のものに絞っているんです。あとは好きに増やしていったらいいと。
だから、僕が基本の設計はしていますけれども、「和室が欲しいな」とか、「ここにパソコンするテーブルが欲しいな」とか、「薪ストーブを入れたいな」とか、いろんなことが会員工務店側でやれるんです。その地域の工務店と一緒にいろいろカスタマイズできるってのがi-worksの一つの利点だと思います。
とはいえ、佇まいや雰囲気は変わらないので、全くどんなものができるかわからないという恐怖感はないと思います。「こんなのが建つんだ」という感触があり、それにプラスして自分の好みを付け加えるというのが、とてもいいことなんじゃないかなと思うんですね。
久永:なるほど、住まい手側もその家にある程度合わせていく感じでしょうか?
伊礼さん:やっぱり大事ですね。本当にそう思うんですよ。
お客さんの要望に合わせて設計するってことも大事ですけれども、自分だったらここを工夫して住みこなそうとか、そういう感覚がすごい大事ですよね。お互いが歩み寄るような、そういう住宅なんじゃないかなと思います、i-worksは。
i-works4.0都城バージョンとは?
久永:今回i-worksは1.0から5.0までありますけども、私が唯一平屋タイプだということで、今回i-works4.0というものを伊礼さんにお願いして、伊礼さんの方で都城バージョンをいろいろご提案いただいたわけなんですが、僕は、伊礼さんの小さな家で豊かに暮らす、その小さな家の中にも工夫して、居場所をいっぱい作るという考え方に共感していたんですよ。なのに、初めて伊礼さんが都城に来られて、模型を取り出し、『今回、ちょっと広くしたよ』って言われたのでびっくりしました(笑)

伊礼さん:4.0は、柱や梁が見えてる日本の建築の特徴である真壁構造なんですね。四畳半ごとに骨格が見られます。それを取り入れながら進化させたのがi-works4.0。久永さんに見ていただいた栃木の4.0は、延床で27坪しかないですね。2階も合わせてですよ。かなりコンパクトなんです。
でも、松元建設さんの敷地を見せてもらった時にかなり広い敷地で、あまりにも広すぎるからと2つに分割してもらって、それでも広いから四畳半のグリッド(910cm×910cm)をもう1グリッド付け足してみようと。地方で暮らす方には、それぐらいの広さがいいんじゃないかな。それでもコンパクトな部類に入るんじゃないかなあ。無駄に広くはないと思うんですね。
久永:たしかに、そうすることによって1階に部屋が3つ確保できてできます。水回りもゆとりがあって、ゆたかな空間になっていると感じます。
伊礼さん:台所もリビングもゆったりして、それが外部でつながっていくような開口部を持っている設計になっています。その分性能もすごく高くして、構造的には耐震等級3を確保、断熱的にはG2レベル、多分気密も頑張っていただけると思うので、性能的にはかなりいいものになると思うんですね。
あと、やっぱり庭とのつながり、外部の自然とのつながりっていうのが、今後さらに重要になってくると思います。
いつも松元建設さんが採用されているソーラーシステム、「そよ風」も入っているので、太陽と応答しながら自然に寄り添って暮らすことができる…これが今後の住まい方の理想なんじゃないかなと思うんです。いまの時代、性能は高いのは当たり前。その上で、より環境と応答して暮らせるというのがやっぱり日本らしい日本的な健康な住まいのあり方なんじゃないかと思います。
久永:ソーラーシステムのそよ風は、もともと当社がやっていて、本当にわずかな電気代で、特に冬は外気温2〜3℃場合でも中は18~19℃ぐらいありますかね。
伊礼さん:その、そよ風、空気集熱式のソーラーシステムを考えたのは僕の先生なんですね。東京芸大の名誉教授の奥村昭雄さん、その奥村先生の師匠が吉村順三さんという、本当に日本の住宅の歴史にすごく貢献された方々で、その奥村先生がはじめたのが空気集熱式ソーラーで、彼から始めて「パッシブデザイン」というのを聞いたんです。「パッシブ」という言葉は今ではいろいろな方が言っているんですけれども…。

簡単に言うと、パッシブの反対がアクティブで、機械を使って快適な環境をつくるということですけれども、パッシブはできるだけ自然エネルギー、自然のものを、あるいはその辺にあるものをとにかくうまく利用しながら、無理せずに環境に応答して暮らすということだと思うんです。
それがすごく奥村先生らしくていいなと思うのと、あとパッシブデザインの中にはそれだけじゃなくて、近所に迷惑かけないようにやたら大きなものをつくるとか、作っちゃだめよとか、そういうことまで含まれているんですね。
あと、材料を無駄にしないとか、エネルギーをできるだけ節約してという、その太陽熱を利用するソーラーシステムって、断熱性能も上がったので、本当にちょっとしたエネルギーを加えるだけですごく快適になる。
あと、新鮮な空気を温めて取り入れているから、暖房をやればやるほど換気しているという不思議なシステムなんですよね。その点は今でもいいなと思いますね。だから、予算に余裕があれば搭載するとより快適になるのでオススメです。
久永:それともう一つの特徴が、これも当社がもともと扱っていた地元のシラス。
伊礼さん:シラス…実はその内装材の「薩摩中霧島壁」、外壁用の「そとん壁」は開発に私が関わっているんですよ。
25年も前になるんですけれども、工場の起工式にも参加していますし、本当に100%自然素材、高千穂シラスの新留社長がすごくこだわって、一切化学物質とか樹脂とか混ぜないで製造しているんです。

久永:普通樹脂で固めたりとか、接着したりとかしますからね。施工の手間やロスを考えて。
伊礼さん:樹脂をちょっと混ぜたら亀裂が入らなくできるんです。でも、樹脂を入れることで性能が落ちるんですよ。吸放湿性とか、特にシラスの場合は、地元の人たちは昔から畜舎に撒いてたと聞いているんですけど、臭いを吸着して分解する効果が高い。
久永:本当に臭わないですよ。
伊礼さん:その効果は残したいということで、一切化学物質を使っていないんですね。
久永:i-works4.0の内装にシラスを使うのって、今回が初めてですか?
伊礼さん:4.0では初めてです。というのは難しいんですよ、塗り厚があるので。だから今回それですごく苦労しています。でも、出来上がったらすごく今まで見たことがない4.0が出来上がるはずなので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
伊礼さんが考える「いい家」って、どんな家?
久永:少し話題を変えますが、ぜひ伊礼さんにちょっとお尋ねしたいことがありまして。当社ではいい家のことを、「心豊かな暮らし」ができる家と定義していて、今あるものをもっと大切にして、それを生かしていくという足るを知る的な考え方というのがこれからは大事なんじゃないかなと思っているんですが、伊礼さんにとっていい家、心豊かな暮らしというのは、どのようにお考えでしょうか?
伊礼さん:そうですね。言葉でいうと抽象的になるんですけれども、人の目を引くような、驚かせるような家・建築じゃない方がいいと思っています。
逆に言うと、目立たないけど、よく見るとよくできているなとか、どことなく美しいなとか、心地よいとか、そういうものが理想かなと思うんですね。そのためには、やっぱり設計者が設計者の自己顕示欲を表に出すようなものじゃなくて、今までの日本建築の先輩方から受け継いできた伝統的なもの、普通なんだけど、やっぱり日本らしい…そうした日本らしさにはこだわりたいんですね。異国のものをそのまま持ってくるんじゃなくて、この日本にあったもの。温熱性能はしっかり確保しているけど、外部ともちゃんと応答して暮らせる家…というのがいいかなと思います。

久永:ぱっと目立っているわけでもない。でも、どこか懐かしく、それでいて新しい…私がはじめてi-worksを見て感じた、「ずっと居たいな」「心地いいな」って気持ちは、まさにいま伊礼さんがおっしゃったあたりなんだと思います。
伊礼さん:そう、だからそれが結局それをどこから来ているかというと、吉村順三さんあたりなんだと思うんですね。
吉村先生はアメリカに1年ほど行ってますから、日本建築の良い部分を受け継ぎながらもアメリカの性能の高さとか快適に暮らすための設備とかを取り入れて、新しい日本の心地いい住宅をつくった方なんですね。60年以上昔の話。断熱材もない時代に建築の温熱性能を良くしようとあれこれトライされていた。そんな考え方を受け継ぎながら、今の時代のバランスの取れたいい家ができればいいかなと思います。
久永:60年経っても普遍的にいいものはありますね。変わらない良さのような。
伊礼さん:ありますね。プロポーションがきれいって、やっぱり今見ても「ああ、いい佇まいだな」と思うんです。そのいい佇まいだなというところまで持っていくデザイン力が大事だと思うんですね。その辺がちょっと難しいところではあるんですけれど、バランスですよね。
ブラケット照明の付け方一つにしても、ここじゃなくてここの方がきれいとか、そういう感覚がもう何十何百も集まって、やっぱり吉村順三さんみたいな、あんないい佇まいができるんだと思います。
なんかで目を引くというよりも、何かどこか心奪われるような、そういう佇まいに辿り着きたいと思うんですよね。
久永:atelier Mingもそういう家を目指していきたいですね。
伊礼さん:いきなりそのレベルは無理ですから、繰り返し繰り返し努力して改善していくと、いつか到達できると思っているんですけど。
だから、i-worksはいいんです。似たようなものを何回も何回も作っていると、どんどん改善されているので。
i-worksは「標準化」がテーマのひとつですが、標準化されたものを使い続けるのでなく、改善のその先に「標準」があるんです。
いろんな工務店がチャレンジして、改善をして情報交換しながら、また僕のところへ戻ってきて、また自分がチャレンジして、それをまたいろんな工務店にも見てもらって、より広げていってもらえればと思います。
久永:そういったところがi-worksのいいところで、いろいろな仲間の工務店でそういうノウハウをしっかりと技術集約して、そして今回家ができあがってくるということですから、我々もまたいろいろな研究をさらにブラッシュアップしていきたいなと思います。

最後に、今日見ていただいている方々から、これから家をつくりたいと思っていらっしゃる方に、何か伊礼さんから少しアドバイスがあればお願いします。
伊礼さん:今はもう大変な時代になって、建築費が5、6年前の3割から4割ぐらいアップしているんですね。ですから、みんな余裕を持って建てられなくなってきているので、僕らも住まい手の要望にいろんなチャレンジをしてきたんですよ。
すごく高価で確実な設備を搭載したりとかやってきたんですけど、今僕が考えているのはあまり難しくない家づくりやりたいなと思うんですね。断熱性能を高めて気密をある程度高めると、設備が自由になるというのがわかってきたんですよ。
だから無理しなくてもいいし、そんなことしなくてもわりと理解できる。住んでいる人が理解できるような設備で快適に住めると。長く住めると思うんですよ。
リノベーションとかリフォームとかにも余計なお金がかからないですし、本当に信頼できる地元の工務店さんとか設計の方が見つかって一緒になってそういうことを目指されるといいんじゃないかなと思う。予算がいっぱいあればすごい設備入れたりとかできますが、そうじゃなくて、自分たちが理解できる範囲で工夫しながら暮らしていくというのがいいかなと最近は思います。
だから、あまり無理しないで家を建てて、少しずつ手を入れながら長く住んでいただければなあと思いますね。
久永:私どもとしては新しい家づくりブランド「atelier Ming 」としてとこのi-worksを進めていきますので、ぜひこれからもよろしくお願いいたします。
本日は、ありがとうございました。
対談の模様は、こちらでご覧いただけます。
